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その39 [第8章 旅立ち]

 フェンスをくぐって道路に出ると、雪はほとんど止んでいた。

長い時間眠ってしまっていたらしく、あたりはすっかり夜。
道ばたの外灯に照らされて、路面がじくじくとみぞれ状の雪におおわれているのが見てとれる。
外気は身震いしたくなるほど冷たく、ママ猫の言ったとおり、このままだと
路面が氷で覆われてしまいそうだ。

急がなきゃ!
ねずは大きく息をひとつ吸い、心にエイッと気合いを入れて、駆け足で坂を登りはじめた。

はっ、ほっ、はっ、ほっ。スピードがにぶらないように、リズミカルに足を運ぶ。
えっ、さっ、ほい、さっ。 おっとっと、つるん!

路面にはところどころにみぞれ雪がたまっている部分があって、
ときおり足をとられることもあったが、半キロの道のりにそれほど長くはかからなかったと思う。
それでも坂道を登りきって、大きなお寺の門にたどりついたときには、
四本の足はまるで凍えたアイスキャンディのようになっていた。

そのうえ、ぐううううう~。
だあれもいない夜の道、聞こえてくるのはねずの腹の虫の悲痛な叫びだけ。
思えば、きょうは、朝からほとんどなにも食べていないのだ。

「お寺の門まで来たら、お情けキャットフードを探してみな」

ねずは、ママ猫のありがたい助言にしたがうことにした。

 お寺の門はまっ黒に古びた木づくりで、高さ二メートルほどもありそうな大きな扉が二枚、
立派な太い柱に支えられている。二枚の扉は、鉄製の大きな閂で閉ざされていて、
毎朝五時前にお寺の小僧さんが開けに来るまで、なかには誰も入ることができないようになっていた・・・
・・・というのは、もちろん人間にとっての話。

閉ざされた扉と地面とは十五センチほどもすき間が空いているので、
猫にとっては扉などないも同然である。ねずはまず、扉のこちら側から探しはじめた。

クン、クン、クン。鼻先に神経を集中させて、嗅覚をフル稼働する。

ママ猫にひっかかれた傷がまだ痛んで、すこし感覚が鈍っていたものの、腹へり猫の鼻は
この世でもっともスルドイもののひとつ。

あっち! ほのかなキャットフードの匂いを嗅ぎあたねずは、
扉をくぐって、右側の太い柱の裏側へとまわりこんだ。

すると、Ohhh、神さま、仏さま!
柱の裏側には大きなどんぶり鉢が置かれていて、そのなかにキャットフードの粒々が入っていた。

もうすでにいろんな猫が食事に来たあとらしく、どんぶり鉢の外にも食べかすが散乱している。
それでもどんぶり鉢のなかには、まだひとつかみほどの粒々が残っていた。
空腹の限界に達していたねずは、あたりをよく確かめもせずにどんぶり鉢に頭をつっこむ。

カリカリ、むしゃむしゃ、ごっつぁんです。
ひとつかみほどの粒々なんて、あっという間にお腹のなか。
物足りないので、どんぶり鉢の外に散らばっている食べかすさえもひとつひとつ拾って食べる。
ひとしきり拾いおわって、もっとどこかに落ちていないかとあたりを見まわしていると・・・

「!!!」

柱の向こうの暗がりに、金色に輝く粒々がふたつ!
もしかしてこれは、大当たり・金のキャットフード?
・・・って、そんなモノがあるわけなくて、それは暗がりにひそんでいた猫の目だった。


  ~その40に、つづく~


コメント(5) 
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コメント 5

こいちゃん

ねずちゃん、双子のママ猫に鼻に傷入れられ、猫界のおきてをまた一つ教えられ、おまけにご飯のありかも教えてくれ・・・・と苦労してる(涙
金色の目。。これからどうなるんだ!
by こいちゃん (2013-08-03 08:35) 

かずあき

こんにちは
ツタヤのDVDで
こんな時間に。
by かずあき (2013-08-03 13:37) 

ChatBleu

うーー、金色の目が怖いですぅ。
by ChatBleu (2013-08-03 14:06) 

のの

あっ。続きがあった(^^;)w
その金色の目は・・・仏っさまか?
by のの (2013-08-03 21:37) 

ミケシマ

ごはん!!あったぁ~~
と、むしゃむしゃ食べて満足したのもつかの間
あやしく光る金色のつぶつぶ!
ねず どうなる?
by ミケシマ (2020-07-26 15:46) 

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