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第6章 新入り ブログトップ

その24 [第6章 新入り]

 その猫を見つけたのは、クリスマスの朝だった。

ねずが最初に身を隠したあのお地蔵さんの祠の裏に、その猫は、困ったような顔で座っていた。
寒そうに、そして、まるでこんなところにいて申し訳ないといった風に、
きゅっと身体を縮こまらせて。

全身をおおうまっ白な毛に、茶色の尻っぽ。
頭のてっぺんと、背中にも、ところどころに明るい茶色のぶちが点々とある。

まだ二歳に満たない若いオス猫で、名前を『パク』という。

「パクって名付けられたのは」いかにも育ちの良さそうな口調で、その猫は言った。
「ぼくが白いから、なんです。でも『シロ』じゃ犬みたいでしょう?
 それで、ちょっと工夫して、中国の言葉みたいな感じで、パク。
 ・・・でもほんとの中国語では、『白』をパクとは読まないんですけど」

 パクも、ねずとご同様に、鈴付きあがりの捨てられ組である。
それも、よりによって、クリスマスイブの夜中に連れてこられたのだ。
猫を捨てたくなった人間にとって、お地蔵さんの祠は『おあつらえ向き物件』に見えるのかもしれない。

 ・・・不要猫・置き去り・いつでもどうぞ!

 ともあれ、祠の裏に誰かいるのを見つけたねずが様子を探りにやってきたとき、
パクは、途方に暮れていた。いきなり、こんな場所で、どうやって生きていけばいいんだろう?

同じような境遇でありながら、パクがねずよりもマシだったのは、とりあえず子猫じゃなかった、
ことぐらいである。凍える季節、もし年端もいかない子猫がこんな場所に置き去りにされたなら、
クリスマスの朝を迎える前に低体温で命を落としていたにちがいない。

反対に、ねずよりキビしい条件は、いくつもある。

もう子猫じゃない、ということもマイナス。オス猫であることもマイナス。
一人前のオトコ同士のなわばり争いは暴力沙汰になることも多く、新参者としてやってきたオス猫は
しばしば血の洗礼を受けるハメになるのだ。

 パクも、もちろん例外ではなかった。

クリスマスの朝、ねずが最初に見かけたときはまっ白で美しかったパクの全身は、
夕方になると土埃でねずみ色に変わっていた。
その翌日には右耳の付け根あたりに深いひっかき傷ができていて、端正な白い顔に血のシミがにじんだ。

 生まれたときからずっと一匹で、鈴付きとして飼われていたパクは、ケンカの仕方すらわからない。
強者どもの攻撃に怯えて逃げまわるばかり。

たしかに、ケンカに弱いのだから『逃げるが勝ち』は賢明な方法だけれど、
パクのような場合にはそればかりではどうにもならない。
ターゲットが弱いことを知ったヤツらは、逃げるパクをさらに追いつめ、いたぶり、打ちのめす。
『弱いものイジメはやめましょう』なんて甘っちょろい倫理観など通用しないのだ、猫の社会では。

一人前のオス猫であるパクがこの地域で生き残っていくためには、逃げずに立ち向かい、
カラダを張って自分の居場所を勝ち得ていくしかないのである。

 最初の三、四日はひたすら逃げまわっていたパクも、
そのうち、逃げてばかりじゃダメということに気づきはじめた。
ろくに食べものも見つけられないので、すきっ腹でやけっぱち、かなり凶暴な気分にもなっている。

とうとうある日のゴミ捨て場で、「もう、どうにでもなれ」と先住猫を押しのけて、
食べ残しのコンビニ弁当に入っていたウインナーのかけらを奪い取り、だせるかぎりの怖い声音で
「ヴー」と低く唸ってみたら、相手の猫はちょっとひるんで、パクからそのウインナーを
取り戻すのをあきらめてしまった。

「そうか、先に強がって見せればいいのか・・・」

 それからのパクは、すこしずつではあるが、闘いはじめた。
低く唸ったり、相手より先に逆毛を立ててシャーと威嚇の声をあげると、
それほど強くない相手なら争いを避けて行ってしまったりすることもわかってきた。

でも、相手がすこぶる強い場合、先手必勝作戦はかえって命とり。
「テメエ、やる気かッ!」とばかりに攻撃され、ケンカの技法に長けていないパクは、
あっという間に追いつめられて血を流すハメになる。・・・それでも一週間ほどたつうちに、
パクは、野っぱらに生きる猫として必要なたくましさを身につけていった。


  ~その25に、つづく~

 


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その25 [第6章 新入り]

 そんなパクの闘いの日々を、ねずは、ずっとベランダから見下ろしていた。

対岸の火の粉ではあるけれど、おなじ『お地蔵さんの祠っこ』である。
なんだか他人事のような気がしない。

みるみる痩せて、みすぼらしくなっていくパクを、このベランダのゴハンに誘ってやろうか
とも思ったのだが、それはぶち子が絶対に許してくれない。
ぶち子は、猫のなかでも超一級の『排他的精神』の持ち主である。

「あんた、バッカじゃない?!」と、黒い方の顔を思いっきりしかめて、ぶち子は叫んだ。
「なんで、あんな知らないヤツに、あたしたちのゴハンを分けてやんなきゃいけないのよ!
 だいたい、ここは、もともと、あたしとママのベランダなんだからねッ!
 あんたなんか居候なんだからッ!あんな猫連れてきたら、あんたもいっしょに追いだしてやる!」

そしてプリプリと猫箱に入ると、ねずが後から入って来られないように、
入口のまん中に背中をむけてでんと横たわったものだ。

 そうこうするうちに、人間社会は『お正月』である。
まぁ猫たちにとっては、一年が終わろうが、新しい年がやって来ようが、
めでたくもなんともないのだが、この時期は野っぱらの猫たちにとってひとつだけ厄介なことが起きる。

 ・・・つまり、食事の習慣が狂うのだ。

 まず、五日間ほどゴミの収集がなくなって、ゴミ捨て場で食べものにありつけなくなる。
ちょっと前までは、どこもかしこもゴミ対策が甘く、お正月の元日あたりから、
もうルール無用のゴミ袋が山積みになったりしたものだが、ここ二、三年は町内の取り締まりが
きびしくなって、そんなゴミ袋も見あたらなくなった。

だから、ふだんゴミ捨て場を主たるエサ場としている猫は、年末からお正月明けまで
たいへん困った事態に陥るのだ。

 また、猫好きな家の庭先などでゴハンをふるまわれている猫たちにも変化が訪れる。
ある日、突然、『キセイ』とか『オショウガツヤスミ』といった謎の呪文とともに、
家中がお留守になってしまうのだ。
それは、公園や駐車場といった公共のエサ場でもおんなじで、ゴハンをふるまいに来る時間が
ぜんぜん変わってしまったり、まったくふるまいに来ない日が出てきたりするのだった。

 で、ねずとぶち子のベランダはどうだろう?
幸いにして窓の人は『キセイ』にも『オショウガツヤスミ』にも縁がないらしく、
ふたりの暮らしにはこれといってなんの変化も訪れなかった。

 他の面々がよりどころにしている公園ゴハンは、どうだろう?
こちらも、お皿オバサンが『オショウガツヤスミ』を返上して日参してくれているおかげで、
多少、朝のゴハン時間が遅くなる傾向はあったものの、みんなが困るような事態は起きていない。

 困っていたのは、ゴミ捨て場だけが頼りの新参者・・・つまりは、パクである。

今年のお正月は、十二月三十日が最後の『生ゴミの日』で、新年の最初の収集日は一月五日。
と、いうわけで、十二月三十日のお昼前にゴミ捨て場がからっぽになるとともに、
パクの年内の食生活も終了してしまった。
祠のお情けキャットフードも、たぶん『オショウガツヤスミ』のせいで、
二十八日の夜からずっと置かれていない。

大晦日の朝も、大晦日の夜も、元日の朝も、元日のお昼も、ゴミ捨て場のすみっこに
ちんまりと座って待つパクの姿が、ベランダから見下ろすねずの目に、ちいさくちいさく映った。

もちろんゴミ捨て場には、ゴミもなければ、だあれもいない。
ゴミのないゴミ捨て場になんぞ、カラスだって寄りつかないのだ。
・・・猫たちには知るよしもないが、このままゴミだけを頼りにするつもりなら、パクは五日の早朝
(ま、早ければ四日の夜遅く)まで、メシ抜きということになりそうである。


  ~その26に、つづく~


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その26 [第6章 新入り]

 この冬は暮れになって急に冷え込んで、大晦日の深夜から雪がちらつきはじめた。
積もるような雪ではないけれど、木枯らしに踊らされて、ひらりひらりと大粒の雪の結晶が空を舞う。

どんよりと曇った寒空のした、元日の早朝からずっと、
氷のように冷え切ったゴミ捨て場のコンクリートに座って待ちつづけているパクのことを、
ねずは、もう放っておけない気がした。

「そうだ♪」ねずは、突然ひらめいた。ベランダがダメなら、公園ゴハンはどうだろう。

 ぶち子のママ騒動のあとも、ねずは、ときどき公園ゴハンに足を運んでいた。
常連になってしまうと、ゲームの興奮にもすっかり慣れっこになって、最初の頃ほど熱くはならない。
ねずの場合、お腹を満たすことが目的ではないので、気分が乗らない日に
わざわざ出かける意味はないのだ。それでも、たまに、なんだかムズムズと体中がやる気でいっぱいに
なる日があって、そんな時はお皿オバサンがびっくりするほどの乱痴気騒ぎを
起こしに行ったりもするのだけれど。

「ねぇ、ぶっちゃん。パクに公園ゴハンのこと、教えてみようか?」

「あんた、まだ、あんなヤツのこと気にしてんの?」ぶち子は、相変わらずよそ猫に冷たい。
「教えたきゃ、あんたがひとりで教えればいいじゃん。
  でも、ここに連れて来ちゃ、絶対ダメだからね!連れてきたら、即、絶交」

・・・と、いうわけで、元日の午後、ねずはひとりでゴミ捨て場のパクのところへ出かけていった。

ねずがトコトコと近づいていくと、パクはゴミ捨て場の冷え切ったコンクリートの上に、
長い茶色の尻っぽをくるんと身体に巻きつけて座っていた。まるでお行儀のよい猫のお手本のように。

「こんにちは」パクは言った。
「寒いですね、なんだか冷たい花びらみたいなのがふわふわと落ちてきて。
 ぼく、冬を過ごすのは二回目だけど、こんなに寒いなんて知らなかったです。
 去年は、ずっと家の中で暮らしていたので」

「うん、夜になると、もっと寒いね。だからねずは、寝るとき、ぶっちゃんと
 ぴったりくっついてるの。そうすると、うんとあったかいから・・・
 えっと、ぶっちゃんっていうのは、ベランダでいっしょに暮らしてる三毛の子だけどさ」

「見かけたこと、あります。でも、ぼくのこと、好きじゃないみたいです。
 通り道にぼくがいると、すごく遠回りして、よけて通られたりしちゃって」
そう言いながら、パクは照れたように笑う。濃い茶色の瞳がくるくると動いた。

「ぶっちゃんは、猫嫌いなんだ・・・ていうか、すっごく怖がりなの。
 だから、よく知らない猫には、近づかないようにしてるんだと思う。
 でも、ねずとはすごく仲よしなの」

「そうですか」パクは、ちょっとうつむいて言った。「ぼくは、誰とも仲よしじゃないかな・・・」

「うん、知ってる。みんな、いじわるだよね。でも、最初に来たときは、誰でもそうみたい。
 ねずだって、ここになじむのに、ひと月もふた月もかかったんだよ」

「はぁ、それが猫の流儀なんですかね」そう言って、パクは、深いため息をついた。
「これから先、うまくやれるか、自信ないな」

「ねぇ、ねぇ、それよか、昨日からずっとここに座ってるでしょ?お腹、すかないの?」

「そりゃ、すいてますよ」パクは即座に答えた。「でも、どうしてだか、ゴミが来ないんです」

「オショウガツヤスミだから、ゴミは来ないんだって」ねずは、知ったかぶりをする。
「ミケねえさんが言ってたよ。だから、あと三、四日は、ここで待っててもムダなんだって」

「えっ、あと三、四日もですか?ぼくのお腹、どうなっちゃうかなぁ」
パクは不安げに、自分のお腹に目を落とした。

「だから、今日、ねずがあっちの公園のゴハンに連れていってあげようかな、って思ったの。
 どうする、いっしょに来る?」

もちろん!ふたつ返事で同意したパクと連れだって、ねずは、久しぶりに公園へと出かけていった。


  ~その27に、つづく~


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その27 [第6章 新入り]

 祠のほうから公園へと向かうには、ねずたちが暮らすマンションの建物をぐるりと迂回して、
道路をひとつ渡らなければならない。マンションを迂回するのはどうってことないのだが、問題は、
道路の横切りある。ねずは、もう何度も渡っているのに、この道路の横切りがちょっと苦手だった。

「ここで、道路を渡るんだけど」ねずは、パクに教える。「ここって、魔物が通るからね」

「魔物って、クルマのことですか?」

「えっ、あのブォ~ンって鳴くヤツのこと、知ってるの?」

「はい、知ってますよ。ぼく、クルマに乗って、ここまで来たんですから」

「へぇー、知ってたんだ・・・」ねずは、ちょっと拍子抜けだ。せっかく世の中のことを
いろいろと教えてあげようと思ったのに、パクは意外とねずより物知りなのかもしれない。
「じゃ、道路を渡るのも、へっちゃらだね」

「えーっと、それは、どうかなぁ? だって、ぼく、ずっと家の中にいたから、
 クルマに乗ったことはあるけど、道路を渡ったことはないですから」

「えっ、そうなんだ!」ねずは、うれしくなった。やっぱり、パクにはいろいろ教えてあげなくちゃ。

そして、ねずは、道路の渡り方を懇切丁寧にレクチャーしたのだ。

道路を渡る前に耳をすまして、ブォ~ンって鳴き声がしないか確かめること。
道路を渡っているあいだはモタモタせず、一気に渡ること。
もし途中でブオ~ンって声が聞こえても、絶対に立ちすくんじゃダメなこと。
(もちろん、それは、ねずが初めてこの道を渡るときアイゾウさんから教わったことのすべて、である)

ま、先輩面のねずには悪いけれど、おりしも元日の夕暮れ時。道路にはクルマの影もない。
ふたりは、これというピンチもなく道路を渡り、公園にたどりついた。

 公園の階段には、いつもより、うんと多くの猫たちが集まっているようだった。
お正月休みのワリをくってふだんのエサ場を失った猫たちが、公園ゴハンの情報を聞きつけて
遠征してきているのである。その数ざっと十七、八匹か、それ以上はいるだろうか。

ねずとパクを合わせると、なんと二十匹を超える猫たち!

 ねずがいままで経験した限りでは、ギネス級の最高記録である。
そして、どの猫もみんな空腹で、貪欲にヒートアップしている感じがひしひしと伝わってくる。
ねずは、なんだかワクワクした。久しぶりの公園ゴハン、今夜は熱いゲームバトルが楽しめそうだ。

・・・そして、この混雑は、新参者のパクにも幸いした。

遠征組が多いので、どいつもこいつも知らない顔。
こうなると、なじみのメンバーが新参者だけを狙ってはじきだすような、いじわるゲームにはならない。
それぞれが、それぞれの度量に合わせて、自分のお腹をどれぐらい満たせるかという
フェアな争いになりそうだ。

そうなればパクだって、この一週間で身につけた、たくましさと知恵がある。
すくなくとも今夜一晩をしのげるぐらいのゴハンには、ありつけそうなものじゃない?

 元日の夜のゴハン・バトルは、ねずの予想をはるかに超える混乱ぶりを呈した。
お皿オバサンの登場とともに、公園の静けさは餓鬼どもの威嚇と攻撃の雄叫びに引き裂かれ、
取っ組みあう二、三匹の猫塊が大地をころげまわり、何枚ものお皿がUFOのように宙を飛び、
キャットフードの粒々が雨あられと降りそそいだ。そして半時間にもわたる大騒動のあと、
髪をふりみだしたお皿オバサンの悲鳴とともに、狂乱の宴の幕は下ろされたのだ。

おおかたの猫たちが姿を消し、お皿オバサンがブツブツ文句を言いながらお皿を片付けはじめた頃、
ねずはやっと、植え込みのかげで身をすくめているパクに気がついた。
・・・あっ、しまった!パクを連れてきてたんだった。
最高にヒートアップしたこの夜、ねずは、ついつい横取りや盗み食いのゲームに夢中になりすぎて、
パクの存在を忘れてしまっていたのだ。
パクは、ちゃんとゴハンにありつけただろうか?ねずは、あわててパクのそばに駆け寄った。

「ねぇ、ゴハン、ちゃんと食べた?」のぞきこんだパクの顔は、なんだか青ざめて見える。

「あっ、ねずさん・・・」おどおどしながら、パクは答えた。
「えーっと、ゴハンは、食べた気がします。頭からキャットフードが降ってきたので・・・
 それに、マグロの缶詰も飛んできたし」

パクの話によると、最初のお皿がパクの前に置かれた瞬間、横からどしんと体当たりをくって、
この植え込みにはじき飛ばされてからずーっと、植え込みのかげに隠れていたんだそうな。
目の前の狂騒に入ることなど、とてもじゃないけどできそうにないので、
グーグー鳴るお腹をかかえてうずくまっていたら、バラバラと粒々が降ってきたので、
それをひと粒ずつ拾って食べていた次第。降ってくるモノのなかには、缶詰マグロの固まりもあって、
こうして落ち着いてみると、お腹はそれなりに満足した感じがする、云々。

 ねずは面倒を見てあげられなかったけれど、パクが満腹したのなら、まぁいっか!
ねずはとても満ち足りた気分になって、パクと肩をならべながらお互いの寝ぐらへと帰っていった。

 次の夜も、また次の夜も、ねずはパクを連れて公園に行った。
お正月の三が日のあいだ、公園ゴハンはメンバーが増える一方だったが、
お皿オバサンはとても一人では面倒を見きれないからと助っ人まで呼んで、キャットフードの
大盤振る舞いをしてくれたので、みんなそこそこお腹を満たすことができた。

ねずは毎晩ゲームの興奮に酔い、パクはすこしずつ公園や、ここに集まる顔ぶれや、
彼らが引き起こす喧噪になじんでいった。

 お正月が明けて、世の中がふだん通りのペースを取り戻すと、公園ゴハンはまたいつもの常連たちの
エサ場になった。そして、もうねずがいっしょじゃない朝や夜も、お皿オバサン待ちの列のなかに、
パクの白い顔が並ぶようになった。いつも、ひっそりと、目立たない片隅ではあったけれど。

ねずは、それからも頻繁に、公園ゴハンに出かけていった。
お正月の、あれほど熱狂的な興奮はもう味わえなかったけれど、大はしゃぎのゲームは楽しめたし、
パクの様子も気にかかる。パクは日を追うごとに明るく快活になり、あのお行儀の良さで
お皿オバサンにも気に入られ、ゴンやミケねえさんといった顔役にも存在を認められはじめたようだ。

クリスマスイブの夜に祠に置き去りにされたパクの身の上話に、
ミケねえさんは「あれまぁ、あの祠に置いていかれた猫は、あんたでもう五匹めだよ」とあきれ顔をし、
ゴンは「そりゃまた、とんだメリー・クリスマスだな」と肩をすくめた。

そして、一月も終わろうという頃には、パクはすっかり公園の一員になっていた。
祠の裏側の、あんまり居心地のよくない茂みを捨てて、
公園の脇の、もう使われていない排水用の土管のなかに寝場所を見つけた。
せまっくるしいけど、冷たい北風をよけられる土管のなかは、落ち葉がこんもりと積もっていて
ふんわりと暖かい。凍える季節を過ごすには、とてもいい寝ぐらだった。

ただし、大雨が降ると水浸しになっちゃうのが玉にキズなんだけどね。


  ~第7章に、つづく~


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