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その9 [第3章 エロの季節]

 ねずは、驚いた。ビニールのことも初耳だが、
こんなふうに話しかけて仲間扱いされたのは初めてだ。ねずは、まじまじと、オヤジ猫を見た。

でっぷりと太った、白黒ぶちの大猫。片目に古傷があり、いかにも百戦錬磨、といった風情だ。
当然のごとく、首に鈴はない。
それなのに片方の耳に、キラキラと緑色に光る、きれいな何かがついていた。
・・・それは、一粒のビーズのピアスだった。

「おじさんは、鈴付きなの?」ねずは聞いた。

「HA!」オヤジ猫は、あきれたように鼻を鳴らす。
「オレさまが、鈴付きかって?」小ばかにしたように首をふった。

「オレさまは、もう八年もここいらあたりを渡り歩いている、生粋のノラだ。
 一度たりとも鈴付きだったことなんかないね。『片目傷のゴン』ったら、おまえ、
 となりの町内まで名の知れたボス猫さまだぞ。ま、おまえみたいに、
 昨日今日、野っぱらに出てきた小娘が知らんっていうのもしょーがないがね」

「じゃ、耳につけてるのは、なに?」
ねずは、オヤジ猫には似合わない、きれいな緑のキラキラが気になっている。

「これか?」ゴンは、ピアスの耳をぴくりと動かしながら言った。
「これはな、ま、一種の教訓だな」

「きょうくん?・・・教訓ってなに?」

「覚えておかなきゃいけないこと、って意味さ。ビニールの教えと同じようなものだ」

「何を覚えておかなきゃ、いけないの?」

「都会のノラの宿命。もしくは、人間のご都合主義、か」ゴンは、訳知り顔で言う。
「ま、おまえみたいなガキんちょには、まだぜ~んぜん分からんだろうが、
人間さまの領域でオレたちが生き延びていくためには、それなりの代償が必要ってことよ」

 ゴンが言っていることは、ねずにはちんぷんかんぷんだ。
ねずはただ、ゴンが耳を動かすたびに光を反射してキラキラと光る、緑のビーズに見とれていた。
自分も、そんなキラキラ、欲しい!ねずは、そう思った。

「それで、耳のキラキラは、どうすればもらえるの?」

「HA!」ゴンは、またバカにしたように鼻を鳴らした。
「おまえ、このキラキラが欲しいってか?まあったく、この世間知らずの小娘が。
 『どうすればもらえるの~』だと?キラキラのしるしの意味も知らずに、よく言ったもんだぜ。
 これだから、鈴付きあがりとは付き合っちゃらんねー、っつーの」

「もったいつけてないで、教えてやんなよ」ねずの後ろから、突然、別の声がした。

      ~その10に、つづく~


コメント(5) 
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コメント 5

yonta*

こんなふうに、おとなにいっぱい質問して、
知恵をつけて少しずつ賢くなっていくんだなあ・・
と思ったら、新たな先輩にゃんこの登場!?
早く続きが読みたいです(^^)
by yonta* (2013-01-06 01:37) 

rantan-nya

実はカテゴリーにあった「エロの季節」が凄く気になってて^^;
やっと始まった! これでスッキリだわ~
ブログでいつも見ているところの保護猫さん、初めてのウンPが
ビニールと砂利だったそうです('_')
その子は、ちゃんと出てきたから良かったです~
ねずちゃんも気をつけて、大人の言うことをよく聞いてね!
by rantan-nya (2013-01-06 20:34) 

morichan

きたーっ!
オヤジの次は、若いイケにゃんかっ?(←完全オバサン発言)。
それにしてもオヤジ猫さん、優し&渋系なのだろうか・・・。
脳内イメージは、巻き巻きが素敵な中尾あ◯らさん。うむむ。
by morichan (2013-01-06 23:44) 

popoki

ご無沙汰です〜!
あ、あけましておめでとうございます。^^
しばらくバタバタしていましたが、
おはなし、全部読みました〜。
なるほど、ねずちゃんは、そうしてベランダにあがったのですね。
そして、大人猫たちとの遭遇。続きが気になります〜!
by popoki (2013-01-07 11:25) 

ミケシマ

おっ。第2の猫、現る。
緑色のピアスは、さくら耳…的なものなのかな?
by ミケシマ (2020-05-18 18:02) 

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