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その12 [第4章 試練]

 「ヤメテクダサイ」ねずは、あわてて猫箱のかげに逃げ込んだ。
驚きとショックで、首の後ろの毛が逆立っている。
そのあたりの毛は、アイゾウさんの唾液でベタベタになっていて気持ちが悪かった。

 「いいじゃないか、ヤラセロよ」アイゾウさんの目は、血走っている。
もう、まったく、いつものやさしくて気立てのいいアイゾウおじさんじゃなかった。

 そこでねずは、やっと思いだした。カスタードクリームの教訓を。ミケねえさんの大切なお話を。
晩秋のこの名月の夜に、アイゾウさんは『エロ』になってしまったのだ。

 とにもかくにも、逃げなくっちゃ!
ねずは、脱兎のごとくベランダから逃げだした。出せる限りのスピードで。
どこでもいいから、捕まらない場所へ。そして、五軒先のお宅の庭先にある大きな桜の木にのぼって、
夜が明けるまで枝先にしがみついていた。

 そんな深夜の訪問が、幾晩もつづいた。
ぶち子に打ち明けたが、あんまり親身になってくれない。
ぶち子にとってアイゾウさんは、いまもやさしいおじさんのままだ。

「だから、エロになっちゃったんだってば」
「エロって、なにさ」
「う~んと、だから、エロ・・・」

 じつは、ねずは、ゴミ捨て場でゴンやミケねえさんに聞かされた話をぶち子にはしていなかった。
ねずのちっぽけな脳ミソでは、あんなややこしい話をうまく要約して、
ぶち子に分かるように説明するのはムリだったので。
だから、エロのことをぶち子に説明するのは手間がかかった。

 「秋は、エロの季節で、オトコがオンナを追いかけまわすんだって!
それで、アイゾウさんもエロになって、あたしのところに来ちゃうんだってば」
 「あんたのとこに来て、どうすんの?」
 「ン???」ねずは考えた。
そういえば、エロになったアイゾウさんは、ねずに何がしたいんだろう?

「あたしの上に、馬乗りになりたいみたい?」
「馬乗りになって、どーすんの?」
「わかんない・・・でも、なんか必死っぽくてコワいんだよぅ」

-------- ま、ねずもぶち子も、エロの真髄を理解するには、まだまだ幼すぎるということだ。


アイゾウさんのエロ攻撃は、二、三日つづくとちょっと休み、またはじまるといった具合に進展した。
そして、そうこうするうちに、ぶち子にも魔の手が伸びはじめた。

 ぶち子のストーカーは茶太郎である。アイゾウさんよりすこし年上の茶トラで、こちらは鈴付き。
鈴こそ付いていないが、イカした赤い首輪をしている。
ふだんはあんまり家の外をうろつかないように管理されているようだが、エロの季節は特別だ。
家の中で暴れては、ムリやり外へ出てくるらしい。

 エロに狂ったオトコどもの襲撃は、たいてい、深夜から明け方である。
したがって、ねずを襲いたいアイゾウさんと、ぶち子を狙う茶太郎が
ベランダで鉢合わせするような状況もしばしば起きた。

そうなると、事態は混乱を極める!

「ねず~、ヤラセロ!(威圧)」
「ぎゃー、ヤメテェ(悲鳴)」
「ぶっちゃん、でておいでぇ~(猫なで声)」
「いやぁ~、来ないでッ(拒否)」
「おめぇ、ジャマなんだよ(怒)」
「テメェこそ、どきやがれ(凄)」
「オラァ、やんのかッ(売り言葉)」
「おぅ、やったろーじゃねーか(買い言葉)」

シャーッ、フガーッ、ギャー!ドタドタドタ!ゴロン、バタン、ドシン!
ベランダは、もはや修羅場である。
さすがに、眠っていた人間たちも目を覚ます。ベランダのお宅だけじゃなく、向こう三軒両隣。
ベランダが開いて、窓の人が顔をだしても、興奮したオトコどもは、すぐには逃げださない。
事態を収拾するために、窓の人はバケツに水をくんできて、オトコどもに浴びせた。

    ~その13に、つづく~


コメント(5) 
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コメント 5

みいみ

ネコもタイヘンだけど人間もねぶそくでタイヘン。
by みいみ (2013-01-26 18:37) 

yonta*

早くエロの季節が過ぎて、やさしいアイゾウおじさんに
戻ってくれるといいんだけど・・(>_<)
by yonta* (2013-01-26 20:50) 

rantan-nya

あの声は胃に悪いです・・ 喧嘩の時の長い長い掛け合いも(>_<)
そろそろ家の周りでも始まると思われます・・
庭に来てた黒チビは、ちょうどねずちゃんと同じくらいのお年頃・・
寒くなったら、ポチッとも来なくなってしまいました、、夏が怖い~^^;
by rantan-nya (2013-01-27 18:54) 

のの

そろそろ始まりましたね!猫エロの季節!(^^;)
うちの周りの雄猫たちも「あ~ぉ~ん」と徘徊中です・・・。
だから・・この辺メス猫いないってばーー;と教えてあげたい・・w
ねず&ぶっちゃんの運命や如何に・・・・;
by のの (2013-01-28 08:03) 

ミケシマ

ねず、ぶち子、アイゾウ、茶太郎の四つ巴?のようすが、
春先によく聞く「猫の恋の季節」の鳴き声と重なりました(;・∀・)
窓の人(のらんさん)の水浴びせ攻撃で
事態が収まってくれるといいんだけど…
by ミケシマ (2020-05-18 18:24) 

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