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その20 [第5章 公園ゴハン]

 公園にねずを誘ったのは、アイゾウさんである。
タマ取りから帰ってきて、一週間ほどが過ぎたころだ。

タマ取り済みになったねずに、アイゾウさんはぱったりとエロ攻撃を仕掛けてこなくなった。
そのかわり、というかなんというか、いままでのように姪っ子の友達といった感じの
子供扱いではなく、一人前の仲間猫扱いをするようになった。

「なぁ、ねず。裏の公園でメシ食ったこと、ある?」
「えっ、ないよー。あっちにも、ゴハン、あるの?」
「あるさぁ、朝と夕方、二回出てくるんだよ」

「へぇー」ねずは、驚いた。ゴハンが食べられるのは、
ベランダと、ゴミ捨て場と、お地蔵さんの祠のなかだけだと思っていたのだ。

ねずとしては、ほぼベランダのお食事で満たされているので、べつによそのゴハンをいただきに
足を伸ばさなくてもいいのだが、そこはソレ、隣の芝生はナンとやら。
その公園ゴハンもちょっと味見してみたい気分ではある。

「でも、あっちは、魔物が通るじゃん・・・」ねずはクルマが恐ろしいのだ。

「ハハハ、魔物って、クルマのことか?あんなの、ぜんぜん平気だって!」
アイゾウさんは、ねずの小心を笑いとばした。

「道路を渡る前に耳をすまして、ブォ~ンって鳴き声がしないかどうか確かめるんだ。
オレたちの耳で、声がキャッチできないようなら大丈夫。
でも、道路を渡るとき、モタモタしちゃダメだぜ。立ち止まらずに、一気に渡れ。
もし道の途中でブオ~ンって声が聞こえてきても、怖くなって立ちすくんじゃ絶対にダメだからな」

 その日の夕方、アイゾウさんの後ろをついて、ねずは初めて道路を渡った。
ブォ~ンが来ないかどうか耳をすまして、何回も首を振って右と左を目視して、
絶対魔物が来ないチャンスはいま!
目をつぶって息を止めて、全速力で走って、反対側の歩道でやっと大きくひと息つくと、
アイゾウさんが大笑いしながら待っていた。

 公園の入口は、急斜面の崖に沿ってゆったりと曲がりながら登っていく階段である。
階段の右側はこんもりと大小の樹木におおわれた崖になっていて、
ちょうど人間の胸ほどの高さまでの石垣が築かれている。
人間の胸ほどの石垣、というのは、それなりの運動能力をもつ大人の猫なら
(ただし体重オーバーのメタボ猫は除く)ぴょんと跳びのることができる高さである。

ねずは、息をととのえながら、階段を見上げた。時刻は夕方の五時をすこし回ったところ。
十二月の五時といえばもう薄暗く、昼間でも暗い公園の階段は
すでにすっぽりと夜の闇に包まれているかのよう。
そんな闇を猫の目で透かしてみると、あらら、どうだろう。

石垣の上にぴかり、ぴかり、ぴかり。

いろんな色に光る猫の目が、一定の距離を保ちながらならんでいる。・・・その数、ざっと二十個あまり。
つまり十匹以上の猫が、階段や石垣や、石垣のさらに上の崖の斜面にまで集まっていた

「あれまッ」ねずは驚いて、ちいさく声を上げた。「あれまッ、あれまッ、あれまッ」

「ほら、今夜も、ご町内のはぐれ者大集合さ」アイゾウさんは浮かれて言った。
「ベランダ姫さま、下々の晩餐に、ようこそ!今宵は、ごゆるりとお楽しみを」

 軽やかな足どりのアイゾウさんにくっついて、ねずも公園の階段を登っていった。
まず、最初に目が合ったのは三毛ねえさんだ。石垣の上からねずを見下ろしている。

「おや、めずらしいお客じゃないか。あんた、タマ取りが終わって、ひと皮むけたってウワサだよ」

「あぁ、世間知らずのチビか。おい、アイゾウ、がきんちょ連れて浮かれてんじゃねぇぞ」
ゴンも茶々をいれてくる。

「や、きょうは遠足の保護者っスよ」年長猫の口撃を軽くかわしながら、
アイゾウさんは階段をすたすたと登っていく。
ねずは、遅れてはタイヘンとばかりに急ぎ足で後をつづいた。

~その21に、つづく~


コメント(4) 
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コメント 4

ChatBleu

ねずちゃん、公園デビューですね~。
公園ニャンズの世界もなんだかワクワクしちゃいます。
アイゾウさんは、若いねずちゃんを連れて行ってちょっと得意そう^^
by ChatBleu (2013-03-23 11:13) 

のの

うーん♪ホントのらんさん、表現上手だわぁ♪
自分も猫の世界にいるかのようです(^^)
by のの (2013-03-23 17:10) 

かずあき

おはようございます。
いつもの公園のお食事風景ですね。
by かずあき (2013-03-24 05:15) 

ミケシマ

おーっ 怖い魔物をよけて、たどり着いたのですね!
いよいよ公園が出てきましたねー。

わたしが学生のとき、一人暮らしのアパートで猫を飼ったんです。
こっそりと。
その子はオスで、「タマ取り」もして、猫風邪をひいていたので病院に連れて行って…
あるとき旅行にいくので実家に預けたんです。旅行から帰ってきて実家に電話すると父の悲しそうな声が。。「ごめんな、うちから飛び出して行って車にひかれて…」
猫が死んでしまったのも悲しかったけど、父にこんな思いをさせてしまったのが申し訳なかった。自分の勝手で大切な猫を死なせ、父まで悲しませて。
大学の馬術部からもらってきた猫だったのですが、そのまま馬術部にいた方が良かったんだ、と心底思いました。
いきものを飼う という責任の重さを本当に理解した瞬間でした。

by ミケシマ (2020-06-09 00:14) 

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