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その21 [第5章 公園ゴハン]

 三毛ねえさんとゴンをのぞいて、ねずの知っている猫はあんまりいないようだ。
チラッと見かけたことぐらいはあるけれど、名前も知らない大人猫たち。そんな猫たちが、
自分たちのエサ場に侵入してきた新顔を冷ややかな目で眺めている。
ねずは、絶対にアイゾウさんから離れまい、と心に誓った。

さらに階段を登ると、暗闇に白くてきゃしゃなシルエットが浮かんでいた。
久しぶりに見る、さくらママの姿だ。ねずは、ちょっとうれしくなった。
「さくらママ!」思わず声をかける。
でも、さくらママはちらっと一瞥しただけで、顔をそむけてしまった。

「冷たいじゃないか、さくら。娘の友達だろ?」アイゾウさんが言う。

さくらママは、そしらぬ顔で丸くなっている。
「兄さんも物好きよね。わざわざ自分の食卓に、よその子を招いてやるなんて」

「オンナって、意地悪だよな。オンナ同士は、とくにキツイぜ。おまえ、ぶち子の様子も
ぜんぜん見に行ってないだろ?どうしてるかって、気になんないのかよ?」

「あの子には、あのベランダを明け渡してやったんだよ。それにいくら子供っていったって、
一人前のメス猫になったら、もうテリトリーを争うライバルだからね。
オンナは自分の家を自分で探しだして、そこで子供を産んで育てて、ぜんぶ自分ひとりの力で
守っていかなきゃならないんだもん。子種だけ蒔いてぶらぶら暮らしていればいいオトコどもとは、
生きる気迫がちがうのよ」

さくらママの言葉に、アイゾウさんはちょいと右耳を倒して見せて、ねずをうながして先に進んだ。
そして、点々とならんだ猫列のいちばん上までくると、石垣のうえに
ひらりと跳びのって腰をおろした。ねずも、慌ててアイゾウさんの横に跳びのろうとしたが、
アイゾウさんのように軽くひとっ跳びというわけにはいかない。
せいいっぱいジャンプして、石垣のはしっこに前足をかけて、ようやく身体を持ちあげた次第。

「ここで待つんだ」アイゾウさんは言った。そう、待つのだ。ひたすら。彼女が来るのを。

 ほどなく、彼女はやって来た。猫列のいちばん上にいるねずには見えなかったが、
アイゾウさんには分かるらしい。「ホラ、来た」というアイゾウさんの言葉とともに、
階段の下のほうから順番に猫たちの騒ぎがはじまった。

ミニャオン!三毛ねえさんの、なんだか気恥ずかしいほど甘ったれた声が聞こえてくる。

「あらー、三毛ちゃん、今日は階段の下までお迎えに来てくれたのぉ?ゴンちゃんもいるのねー。
あらあら、タマちゃん、あんた昨日から見かけなかったけど、どうしてたの?」

甲高い声で絶え間なくしゃべりながら、両手に大きなビニール袋をひとつずつぶらさげた女の人が、
階段を登ってきた。石垣の上や崖の斜面で待っていた猫たちが次々に飛び降りて、
彼女のまわりにまとわりつき、階段を登る彼女のうしろからぞろぞろと隊列をなして歩いてくる。

その様子はさながら、不思議な笛で動物たちを呼びよせる、どこかの童話の笛吹少年のようである。

「さぁ、いよいよ晩餐会のはじまりだ。ねず、オレたちも行こうぜ」
アイゾウさんはそうねずに声をかけると、ひらりと石垣から飛び降りて、猫の行進に加わった。

~その22に、つづく~


コメント(4) 
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コメント 4

ChatBleu

お外の猫たちが何を考えてどうやって暮らしているのか、私たちには知る由も
ないはずなのに、本当にこの通りのような気がします。
のらんさん、実はねずちゃんだったの?って感じ。素晴らしい~!
by ChatBleu (2013-03-30 11:38) 

yonta*

わー、ねずちゃん、いよいよ公園レストランでお食事だ♪
アイゾウさんのエスコート付きで(^^)
私もお腹空いてきちゃいました・・・
by yonta* (2013-03-30 23:03) 

かずあき

おはようございます。
これが公園での食事風景の
はじまりなんですね。
by かずあき (2013-03-31 03:49) 

ミケシマ

ねずちゃん、公園デビュー本番!がんばってごはんにありつくんだよー^^
それにしても外猫さんの世界は厳しいなぁ。改めて…
そりゃ皆命がかかってますもんね。
うちのビビリたちには無理かなぁ…
シマは小さい頃2回くらい脱走したけど…(ドアの外3mくらいまで)
今は家の中から出たがりません^^;
by ミケシマ (2020-06-16 17:38) 

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