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その48 [第10章 新しい出会い]

 さて、そうこうしているうちに、古株のみなさまは朝のお食事を終えて、
そろそろ散会してしまわれたご様子。 卒塔婆の影から見守っていたねずは、最後のひとりが
ゆるりと立ち去ったのを確認するや、そそくさと寝ぐらを飛び出し、猫鉢へと駆け寄った。

新米猫としては、こういうエアポケットのようなすき間時間を有効に活用せねばならない。
いつ別猫がやって来るやも知れない状況下では、鬼の居ぬ間に洗濯、ならぬ、
さっさと残り福でお食事を、なのだ。

ねずが猫鉢のところまで来てみると、あれまあ、本日はみなさま食欲旺盛で。

きちんと並べられていたはずの三つの猫鉢は、あちらこちらに飛ばされて、ひっくり返ったり、
転がったり。 あたりの地面には、食べこぼしのキャットフードが散乱している。
それでも、転げずに残っていた唯一の猫鉢にはまだ二、三十粒ほどのキャットフードが入っていたし、
あたりにこぼれている粒々を拾えば、まずまずの腹ごしらえはできそうである。

 ねずは、さっそく猫鉢に顔をつっこみ、朝のエネルギー補給に取りかかった。

 「・・・・ねぇ・・・・」

 大きな猫鉢にすっぽりと顔をつっこんで、底に残ったキャットフードをがつがつとさらっていた
ねずの後ろから、遠慮がちなか細い声が、ひとつ聞こえた。
ねずが気づきもせずに食べ続けていると、すこし間をあけて、もうひとつ。

 「・・・・あの、ちょっと・・・・」

 こんどは、ささやくような声色に、ほんのすこし切迫した感じが含まれている。
意識のほとんどを目の前の食事に集中していたねずが、あわてて猫鉢から顔を上げて後ろを振り向くと、
その声の主は、ねずから二メートルぐらい離れたところに、小首をかしげてちょこんと座っていた。

 見たこともない、つややかな銀鼠色の毛並み。 ほっそりと、しなやかなラインを描く肢体。
手足も、胴体も、ずんぐりとしたそこいらの駄猫たちに比べて驚くほど細く、
きゃしゃな顔立ちはシャープな逆三角で、大きめの耳がバランスよく配されている。
鼻面は長く、すこしとがっていて、まん丸なねずのちんくしゃ顔とは大ちがい。

ま、わかりやすく言うと、まるっきりガイジンと日本人、アングロサクソンとモンゴロイド
といった風情である。そして、その端正な顔のまんなかには、
吸い込まれそうに大きなコバルトブルーの瞳がふたつ、キラキラと深い輝きを放っていた。

 ねずは、思わず息をのんだ。 いままでにこんな美しい猫に出会ったことはない。
おりしも昇ってきた朝日の、天から舞い降りてきたひとすじのやわらかな光のベールに包まれて、
彼女はまるで王女さまのように優雅にたたずんでいる。

いくら不調法なねずでさえ、話しかけるのにちょっと言葉を選んでしまう、
そんな浮世離れした雰囲気が、その猫の全身から漂っていた。

   ~その49に、つづく~


コメント(3) 
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コメント 3

こいちゃん

あらら・・・王女さまかと見まがう美しい猫??
ねずさんはこの後どうするのかな??
by こいちゃん (2013-10-05 09:29) 

ChatBleu

そんなお嬢様ふうなニャンコが、どうしてそんなところにやってきたのでしょう。
あー、また、来週が楽しみだわ。
by ChatBleu (2013-10-05 13:19) 

かずあき

おはようございます。
天女様のご到来ですか。

楽しかったけど疲れました。
聴導犬の研修はよかったです。
by かずあき (2013-10-06 05:14) 

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