その53 [第10章 新しい出会い]
「その時に出会った一匹の男性が、わたくしを気に入ってくださったんです。
彼のお宅で、いっしょに暮らそうって。彼は、それはそれはハンサムなスコティッシュホールドで、
大きなお家に住んでいました。彼が丸二日もお家を空けてわたくしといっしょに過ごしたあと、
わたくしを連れて家に帰ると、彼のお宅の女性はひどく怒りだしましたの。
『アレックスちゃん、お家から出ちゃダメじゃないの!それに、なに?この薄汚れたメス猫はッ!』
そう言って、その方は、わたくしを段ボール箱に入れて、このお寺の門前に連れてきたんです。
『とにかく、あんたはアレックスちゃんのまわりから消えてちょーだい。
あの子には良血のスコティッシュホールドのお嫁さんを貰うことになってるんだからねッ!』
それだけ言い残して、わたくしを置き去りにしました」
ヒメの長い長い身の上話は、ねずを仰天させた。
そのうえこの王女さまのお腹には、なんと赤ちゃんがいるらしい!
こんなに細っそりとしているのに?・・・でも、あらためてじっくり観察すると、
胸や手足の細さにくらべて、下腹のあたりだけふっくらと丸みを帯びているように見える。
お腹に赤ちゃんのいる猫と話をするのははじめてだ。
知りたがりのねずちゃんは、ヒメを質問ぜめにした。
「じゃあ、じゃあ、あんたのお腹には、赤ちゃんがいるの? いつ産まれるの?
どうやって産まれるの? 赤ちゃんがいるのに、ふつうに走ったりしててもいいの?
そもそもお腹に赤ちゃんがいるのって、どんな感じ?」
ねずのやつぎ早な質問に、ヒメは微笑みながら答える。
「赤ちゃんは、お腹に宿ってからふた月ほどで産まれるんですよ。いま宿してひと月あまりですから、
あと三週間ほどで産まれますでしょうか。なにしろわたくしもはじめての経験ですから、
どうなることやら、まったくわからなくて・・・でも、このお寺の門のところで暮らしていらっしゃる
黒猫さんが、教えてくださいました。その方は、ひと目でわたくしのお腹に赤ちゃんがいるのを
お察しになったらしくて。
『産まれるまでにいつもよりたくさん食べて、体力をつけておかなきゃダメ。静かにお産ができて、
少なくとも一日、二日は赤ちゃんを抱っこしてゆっくり横になっていられるような、
雨風をよけられる寝ぐらを探しておかなきゃダメ。そのあとも、赤ちゃんにたくさんお乳を
あげられるように、あんた自身がゴハンをしっかり食べられる餌場を確保しておかなきゃダメ』
っておっしゃって。
それで、まだお腹が大きくならないうちに、百八の石段を昇って、
こちらのお寺の境内か裏手のお墓に居を構えたほうがいい、と勧めてくださったんです」
「うん。このお墓や境内には、いろんなところに猫用の大きな鉢が置いてあるの。
朝と夕方、キャットフードがいっぱいになるんだよ。それに、あんたがお産するのにぴったりの場所、
ねずは知ってる!境内の奥のほうにおっきな木があって、その幹にぽっかり穴が開いててね。
なかがフカフカで、すっごく気持ちよく眠れるの。きっと気に入るよ。
あんたも、産まれてくる赤ちゃんも!」
ねずは自分のお産でもないのに、なんだかノリノリだ。
長いお話を聞いているうちに、ねずは、ヒメのことが大好きになったのだ。
波乱の運命にふりまわされながらも、荒むことなく、素直でやさしい心を持ちつづけているヒメ。
なんとお腹に赤ちゃんを宿して、ねずの前にとつぜん現れた新入り猫。
・・・ただでさえおせっかいなねずちゃんが、こんな場面ではりきらないわけがないでしょう?!
でも、なんだかこの展開、いつかの場面のデシャヴのような・・・?
ねずちゃん、くれぐれも、コトの運びは慎重に。パクのお話の二の舞にならないように気をつけて!
~第11章に、つづく~
おはようございます。
どんな赤ちゃんが生まれるんでしょうね。
by かずあき (2013-11-09 07:59)
ひえええ、ヒメちゃん、ご懐妊中だったのですか!
無事にお産は済んだんですかねぇ・・・心配。
そして、そのアレックスくんとやらの飼い主さんはむちゃ腹立ちますな!
by こいちゃん (2013-11-09 08:59)
ねずちゃんのお節介なところがまたカワイイですねぇ。
今度は辛い思いをしませんように。。。
by ChatBleu (2013-11-09 10:50)
ふむふむ・・( ̄m ̄*)
さぁねずちゃん、どんな活躍を見せてくれるのかな?
by のの (2013-11-09 21:18)