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その65 [第13章 命をつなぐ]

「ヒメが死んじゃったの。赤ちゃんを残して。
 一匹はカラスにさらわれたけど、二匹はまだ無事。
 だから、お乳のでるメス猫を探せって。さくらママの声が聞こえたの。
 キン子さんに相談しろって」

・・・キン子さんに説明しながら、ねずの目からまた涙があふれでた。
ヒメの濡れた亡骸と、まだそのお腹にしがみついている子供たちの姿が目に浮かぶ。

「あれまっ!じゃ、赤ちゃんは二匹、まだ生きてるんだね!お墓にいるのかい?生後何日?」

「うん、墓石のうしろにいる。生まれて三日目」

「そりゃ大変だ!一刻も早く、だれかが抱っこしてやんなきゃ!このままじゃ凍え死んじまうよ!
 お乳のでるメス猫・・・???」 そうしてキン子さんはしばらく考えて、ふと目を輝かせた。
「アンタ、ぴったりのオンナがいるよ!」

「えっ、ほんとですか?」ねずは聞き返す。 そんな猫って、いったいどこに?

「アンタ、前にここへ来るとき、坂道の途中で親子に会ったって言ってただろう?
 あの母猫は『りりぃ』っていって、子育てのベテランなんだよ。
 アンタが会った双子はそろそろ自立できる年頃になって、もう、りりぃがつきっきりで
 面倒を見るほどじゃない。でも、ついこのあいだまでお乳を飲ませてるって言ってたからね、
 このままその赤ん坊たちだって、育てられそうなもんじゃないか」

 りりぃママ! ねずは思い出した。シャーッという鋭い威嚇の声。憤怒の眼。
鼻先をかすめた爪。やがてねずの不作法を許し、おだやかに子供たちを見つめた愛情深い横顔。
そして、鈴のようにかわいらしく響いた双子たちのユニゾン。

「りりぃママ!」息せき切って、ねずは叫ぶ。
「りりぃママは、まだあの坂の途中にいるの?抱っこしてくれる?ねずが子猫を連れていけば?」

「まぁ、まぁ、アンタ、ちょっとは落ちつきなよ」 キン子さんはいたって冷静である。
「坂の途中の藪は、お彼岸の前にきれいに苅られちまったんだよ。
 まぁ、あたしたち猫にとっては寝ぐらにするのに都合のいい藪だったんだけどさ、
 人間にとっちゃ見苦しかったんだろう。 ここらあたりはお彼岸になると、毎年なにかと
 小ぎれいにされちまって住みづらくなるんだよ」 キン子さんはちょっと肩をすくめてみせた。
「で、りりぃは、いまは双子を連れて公園に住んでる。そろそろ双子も子離しの時期だし、
 公園で一人前に暮らせるように猛特訓中ってわけさ」

「公園? あの公園なら、ねずはよく知ってる!ねずが行って、頼んでくる!」
・・・ねずは、いまにも駆けだしそうな勢いだ。

「まぁ、まぁ、待ちなよ。りりぃは気が強くてね、あんまり猫づきあいがよくないんだ。
 アンタなんかじゃ相手にされないだろうけど、古なじみのあたしならなんとかなるだろう。
 だから、あたしが先に公園に行ってりりぃに頼んでおくから、アンタはお墓に戻って、さっさと
 赤ちゃんを公園まで運んできな」 そう言って、キン子さんは、ねずの眼をはっしと見据えた。

「アンタ、赤ちゃんの運び方、わかってんのかい?
 生まれたての赤ちゃんっていうのは、首筋のところをくわえて運ぶんだ。
 落とさないようにしっかり、でもやさしくくわえるんだよ。
 二匹いっしょは無理。 一回に一匹ずつしか運べないからアンタは二往復しなきゃなんない。
 やっかいなのは、そこんところさ。 赤ちゃんが二匹でくっついている時はお互いの体温で
 あっためあって凍えずにいられるけど、アンタが一匹目を運んでいるあいだ残されたもう一匹は、
 アンタが戻ってくるまでひとりぼっちになっちまう。その時間、命がもてばいいけどね・・・
 とにかく急ぐんだよ」

 そんなふうに言い残すと、キン子さんは、まっ黒な毛をひらりとひるがえして、ひとっ跳びで
暗闇の道に消えていった。 残されたねずは、赤ちゃんを運ぶという大役を肝に銘じながら、
大急ぎでお寺の石段を駆け昇りはじめた。

      ~その66に、つづく~


コメント(6) 
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コメント 6

かずあき

おはようございます。
消えゆくから
つなぐ命、赤ちゃん二人の
命はネズ君にかかってます。
次回もその動きが期待できそうな。

やっと先ほど、アップが完了。
午前5時の皆さんの朝食時には、私自身が忘れて。
by かずあき (2014-02-01 08:51) 

ChatBleu

ねずちゃんガンバレ!
キン子さんの説得がうまくいきますように。
by ChatBleu (2014-02-01 08:58) 

こいちゃん

ねずちゃん大役ですね・・りりぃママは多分言うこと聞いてくれると思うけど。
by こいちゃん (2014-02-01 15:40) 

のの

(><)一気に三話読みました。
続きが気になります;;;
by のの (2014-02-01 21:30) 

makimaki

訪問しました
by makimaki (2014-02-02 07:24) 

テツ

ワタシの短い野良猫観察経験で思ったのは
大抵の大人の猫は仔猫に対して無条件に優しいということです。
50年位前までは人間もそうだったように思います。
by テツ (2014-02-22 17:09) 

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